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アイヌ語のサケとマス-サケの語源(6) [ 北海道と食]

サキペがサケに?-サケの語源(5)

サケの語源は、アイヌ語の「サクイベ」とか「シャケンベ」だという説を詳しく紹介しました。広辞苑、その編者の新井出、そして金田一京助という権威がその説を提唱しているわけ。多くのネット情報でも、そういう説明が多くあります。
でもそれらは間違いで、正確にはサケの語源のアイヌ語 sakipe は「サキペ」と呼びます。
ところが「サキペ」は、sak が「夏」のこと、 ipe が「魚」のことで、「夏の魚」という意味で、これは実は、サケ(鮭)のことではなくて、マス(鱒)のことなのです。

ネットの情報には、日本語(北海道)ではサケを「秋味(アキアジ)」というのにアイヌ語ではサケを「夏の魚」というのは変だ、などという意見もあります。
でもそう思うのは、アイヌはサケを「サキペ」と呼んだと誤解しているからです。

重ねて言います。アイヌ語のサキペは、サケのことではなくて、マスのことなのです。しかしどうしてそんな取り違えが起きたのか?

金田一京助は、アイヌが混用しているという説明をしています。それは本当なのかどうか、もう少しアイヌ語を見てみましょう。では、アイヌ語でサケはなんというのでしょうか?

 

知里真志保『和人は船を食う』(2000年、北海道出版企画センター)に書かれていることなどから紹介しましょう。「ルイベの語源」に書いたこととやや重複します。

■サケのこと

アイヌ語では、魚のことを ipe と言います。
それで、マスを sak-ipe 「サキペ」(夏・魚)、サケを chuk-ipe 「チュキペ」(秋・魚)と言います。またウナギは tanne-ipe 「タンネイペ」(長い・魚)、太刀魚を inunpe-ipe 「イヌンペイペ」(炉ぶち・魚)といいます。
またアイヌ語ではサケのことを shipe 「シペ」ともいい、これは shi-ipe(真・魚)から来ています。
あるいは、サケを kamuy-chep 「カムイチェプ」(神・魚)と呼びます。カラフトでは、 chuk-chep 「チュッチェプ」(秋・魚)と呼ぶ地域もあるそうです。

ところで、 ipe 「イペ」は本来は食物を意味する言葉です。またchep 「チェプ」は元は、 chiep 「チエプ」で、chi-e-p (われらが・食う・もの)という意味で、これも本来は食物のことです。それらが後に魚の名称になったのです。

かつてアイヌには魚を主食とした時代があったことをこのことは物語っています。しかもあらゆる魚を主食としたのではなく、ある特定の魚を主食としたと考えるべきです。では、どの魚かというと、それはサケです。サケを shi-ipe(真・魚)とか、 kamuy-chep (神・魚)と呼ぶのは、サケを主食と考えて、それを特別に尊重して別格に扱った時代があったことを物語っています。

かつて川には文字通りサケが満ちあふれ、単純な漁具と漁法(鈎でひっかけて、棒でたたき殺すなど)で大量に漁獲できた。そしてそれらを「イペ」(食物)とか「チエプ」(われらが・食う・もの)と呼んだ。その後、漁具と漁法が進歩し、沼や海で多くの種類の魚を獲るようになり、それらが「イペ」、「チエプ」(魚)と呼ばれるようになると、それらと区別するために、サケを特別な名前で呼ぶようになった。「シペ」(真・魚)、「カムイチェプ」(神・魚)がそれです。あるいは白老や幌別では、 chiep 「チエプ」を魚として、それと chep 「チェプ」(サケ)とを使い分けて呼ぶようになったのでしょう。

■マスのこと

マスの名前についても紹介しましょう。こちらは、同じく知里真志保の『地名アイヌ語小辞典』(1984年復刻、北海道出版企画センター)からです。

マスは普通は ichan-iw 「イチャニゥ」(ホリを掘る者。ホリは産卵場のこと)と呼ばれる。しかし秋口になってサケが川にのぼりはじめると、「ホリを掘る者」とマスを呼ぶのはサケに対してはばかりがあるので、マスを sak-ipe 「サキペ」(夏・魚)、サケを chuk-ipe 「チュキペ」(秋・魚)と呼びます。

そういうわけで日本語、というか北海道では、サケのことを秋味(アキアジ)ともいいますが、アイヌ語でもまさに同じ意味です。

■アイヌは鮭を和人は舟を食う

アイヌは魚のことを chep 「チェプ」とか chiep 「チエプ」と言い、それはまた鮭のことでした。ところが、アイヌ語だと称して魚のことを「チップ」と呼んでいることがよくあります。支笏湖あたりで、ヒメマスのことを「チップ」と称して、チップ料理を出しています。
しかしヒメマスは、「カバチェプ」です。

アイヌ語で chip 「チップ」と言えば、アイヌ語では舟のことです。

だから和人は舟を食う、というわけです。(知里真志保『和人は船を食う』)


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