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金田一京助のアイヌ語源説-サケの語原(3) [ 北海道と食]

新村出のアイヌ語源説-サケの語源(2)

「サケ」の語原について、アイヌ語研究者の金田一京助の説を紹介します。

日本国語大辞典には、世界言語概説の「アイヌ語」(金田一京助)に「アイヌ語シャケンベ(夏食)が日本語に入ったもの」とある、と書かれています。

『世界言語概説』(1955年)には次のように簡単に書いてあります。
アイヌ語から日本語へ「古く入ったものに鮭(しゃけんべ shakipe<夏食>)秋あじのスケ(chuk-chep<秋魚>)」。 新村も書いていた「シャケンベ」に加えて「スケ」が出てきます。しかし説明が簡単すぎてわかりにくいです。

金田一の説をもっと詳しく紹介しましょう。日本国語大辞典の説明が誤っていることもわかります。

 

■1933年

「アイヌ語と国語」(『国語科学講座Ⅳ 国語学』1933年、明治書院。金田一京助全集第6巻、1993年、三省堂所収)には次のようにあります。(< >は原文ではフリガナです。)

「サケ・スケ(鮭) 東国にて鮭をサケノイオ・サケノヨなど云うのは鮭<さけ>の魚<いお>であって、さけ(原文傍点)は外来語の趣がある。アイヌは鮭はシイベ(shi-ipe「真食」)又はカイムイチェプ(Kamui chep「神魚」)と云って、魚を常食としたアイヌでは最も大事にされる魚である。内地では、昔は塩をした辛鮭<からさけ>だけを鮭と思って粗末な魚と思っていたが、鮭の獲れる本場では、やはり大事にして鮭<さけ>の魚<いお>と云っていたのである。鮭と似ていて、外国などでも屢々一緒にされる鱒は、江戸でも区別せずに鮭と一様にシャケと呼んでいたものであるが、鱒は夏に獲れるもので、鮭は秋に獲れるものだから、アイヌの夏日の常食は鱒だった。それでアイヌ語でシャケンベ、サケンベ、もっと精密には、シャクイペ又はシキペ(sak-ipe, shak-ipe)と云うのが、邦人に江戸時代からシャケンベ・サケンベと訛られていた。恐らく、シャケ・サケの語源であろう。鮭の方は、邦語ではアキアジ(秋味)と云われていた。奥州や常陸で、産卵の為に秋遅く川へ上がる大鮭をスケと呼んでいた。これが、アイヌ語の鮭を呼ぶ今一つの名、即ち「秋味」の称の原語チュクチェプ(chuk chep「秋魚」)のチュク「秋」に関係がありそうである。チュがシュ若しくはスとなるのは国語の転訛の常である。即ちシャケとスケとは、アイヌ語の夏(shak)と秋(chuk)とであるらしい。」

「シャクイペ又はシキペ(sak-ipe, shak-ipe)」とありますが、この部分は「シャクイペ又はサキペ(sak-ipe, shak-ipe)」の書き誤りでしょう。アイヌ語は「s」と「sh」の区別はないので、(sak-ipe, shak-ipe)は同じものですが、発音はサキペ、シャキペでしょう。

こうして金田一は次のように書いています。

sak-ipe(サキペ、シャキペ)→サケンベ、シャケンベ→サケ、シャケ
chuk(チュク)→スケ

鱒を意味するsak-ipeがサケになったという理解は、新村と同様です。他方でスケは、鮭を意味する語の前半のchukが転訛したという理解です。サケもスケもアイヌ語起源だけれども、語源が異なっているという理解です。

なお「アイヌ語でシャケンベ、サケンベ」という説明は誤りでしょう。アイヌ語にはそういう言葉はありません。これは新村のところで書いたように、『蝦夷方言藻汐草』に「シャケンベ」とあったことに由来するのでしょうが、しかし誤りです。

■1934年

金田一京助「国語学に於けるアイヌ語の問題」(国語学講習会編『国語学講習録』1934年)には次のようにあります。

「鮭も・・・、蝦夷書色々の本に、シャケンベと書いてゐる。shak-ipe「夏の食」の訛りである。更にシャケとなったものであらうか。・・・又鮭の大きなものを介<すけ>と云うが、之も関係があるであらう。アイヌ語ではchuk-chep「秋魚」即ち秋味である。シュクがスク・スケとなったものであるかも知れない。」 「蝦夷書色々の本」とは『蝦夷方言藻汐草』などのことでしょう。

■1948-1949年

『社会科事典』(1948-1949年、平凡社)の第1巻「アイヌ」の項には、次のように詳しく書いてあります。

「鮭は東國・北國の産であるが、夏に来て夏の食料となる鱒の方がアイヌ語sak-ipeで、邦人これをサケンベと訛る。秋になって川にのぼってくる大形の鮭を邦人はスケと呼ぶが、アイヌ語にそれは秋魚chuk-chepという。邦人訳して秋味と言い、またchukを訛ってスケという。サケ・スケの語義が邦語で解きがたいのは、こうしたアイヌ語原に出たものだからであろう。」

ここでも sak-ipe(サキペ)→サケンベ→サケ chuk(チュク)→スケという説明が簡潔にされています。

■1955年

『世界言語概説』(1955年)には、次のように簡単にあります。

アイヌ語から日本語へ「古く入ったものに鮭(しゃけんべ shakipe<夏食>)秋あじのスケ(chuk-chep<秋魚>)」。

■1956年

「アイヌから来た言葉」(『ことばの生い立ち』1956年、講談社。金田一京助全集第6巻、1993年、三省堂所収)には、次のようにあります。

「和名鈔にすでに載っている古い言葉の鮭<さけ>が、ひょっとしたらアイヌ語か。北地の魚で、昔エゾ族の住んだ地方の名物である。夏捕れるのを夏食(sak-ipe)、秋捕れるのを秋食(chuk chep)という。アイヌは漁猟の民で、魚類中では鮭が一等の魚で、神魚(kamui chep)という。この魚という語が「吾々の食うもの」(chi「吾々」e「食う」p「物」)という語原である。実は、秋は鮭の季で、7月、8月は鱒という少し小振りでよく鮭と一つにされる魚の川へ上ってくる季節だから、夏食<サキペ>は鱒の方であるけれども、8月の末から、もう早い鮭が上って来て鱒といっしょに網にかかる。これがやはり夏食<サキペ>と呼ばれる。邦人が訛ってサケンベという。このサケが、全体の名となったのではないか。秋になって上ってくるほんとうの鮭<さけ>をば、秋味<あきあじ>といっている。秋食<チュクチェプ>の邦訳であるが、音訳の方はチュクをスケと訛って、これは、秋おそく上ってくる大きな魚のことで、時としては鱒にも、マスのスケという。このスケは、茨城地方のスケ川のスケであり、茨城県下には、鮭の名所に鮭神を祭ったのが起源であろうオースケ神社がある。スケを祐に連想して、工藤祐経の子が来て死んだから祭ったというような通俗語原説が発生しているけれど、もとはアイヌ語の鮭の秋魚の秋という語の伝わったもの。」  「和名鈔」は「倭名類聚鈔」(934年頃)という百科事典のことで、そこには「鮭」が出てきます。 ここでも sak-ipe(サキペ)→サケンベ→サケ chuk(チュク)→スケという説明が簡潔にされています。 こうしたアイヌ語原説をさらに検討してみましょう。(続く)


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