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遠藤哲夫著「大衆食堂の研究」を読む(3):大衆食堂と食生活 [食文化]

遠藤哲夫『大衆食堂の研究』(1995年、三一書房)というスゴイ名前の本の紹介をしています。

 

大衆食堂の研究―東京ジャンクライフ

大衆食堂の研究―東京ジャンクライフ

  • 作者: 遠藤 哲夫
  • 出版社/メーカー: 三一書房
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 単行本

 

この本はとっくに絶版ですが、著者がネットで全文公開していますので、そこで読むことができます。
 http://entetsutana.gozaru.jp/kenkyu/kekyu_index.htm

今回は大衆食堂が示す食生活について紹介してみます。

本書は大衆食堂で食べることを推奨し、実際の大衆食堂が何店も紹介しています。
これぞ大衆食堂という3つの食堂が熱く語られています。

江東区亀戸の川崎屋
西日暮里の竹屋食堂
駒込のたぬき食堂

川崎食堂竹屋食堂も今はない。
たぬき食堂は一度閉店したんですけど再開されて生きています。

本書はさらに大衆食堂を「あいうえお順」に列挙します。
これももちろんすでに閉店したお店がいっぱいです。

しかし著者の意図は、こうした大衆食堂の紹介や大衆食堂で食べることの推奨にあるわけではないんです。

編外編*これこそ食堂

食堂のメニューがこれまた「あいうえお順」にズラズラと並べています。
著者はその理由をこう書いてあります。

「それでは、食堂メニュー一覧をやってみよう。
ほんとうは、食堂については、おおくを語る必要はないんだ。これだけあればね。メニューが食堂のすべてだし、そこから、それぞれのひとが、何かを、読み取るんだと思う。何かを、語るんだと思う。
だけどメニューだけでは、これだけじゃ、本にならないから、ぐたぐた書いたような気がしないでもない。すいません。」

メニュー一覧が食堂のすべて、メニュー一覧が本書の目的だって?
筆者は『大衆食堂パラダイス!』の中で、「『大衆食堂の研究』の本音」という項でこう書いています。

「拙著『大衆食堂の研究』では、食堂メニュー一覧をやっている。そこでおれは、自分が入って写しとっておいた大衆食堂のメニューを、その文字のままにズラズラ並べた。」(p.325)
「大衆食堂のメニューをかき集めてみると、実際に普通の家庭で作られていたかどうかわからない料理書のメニューや、そういうものを年代順に整理し勝手なリクツを付加しただけの食べ物の歴史より役に立つことがあるだろうと思った。そして、やってみた。
大衆食堂のメニューは実際に普通の家庭で作られていた料理である。すべての家庭料理の反映ではないが、むしろ全国的にも地域的にも季節的にも、もっとも普通の料理であり、つまり時代のスタンダードを鳥瞰するにはよい。」(p.327)

大衆食堂のメニューは普通の家庭で作られている料理の反映である、という理解があるのです。
だから大衆食堂のメニュー一覧は家庭で作られる料理のスタンダードを表す。
このことを著者はやりたかったのです。

大衆食堂のメニューは家庭料理のスタンダードだという理解は大衆食堂の歴史を記述した中でも確認されています。

「東京市社会局、大正14年4月発行『東京市設社会事業一覧』には、当時の「東京市公衆食堂成績」がある。これには、11ヵ所の食堂がのっている・・・。当時の、「東京市公衆食堂」のメニューである。
  定食  朝10銭、昼15銭、タ15銭
  うどん 種物15銭、普通10銭
  ミルク 牛乳1合7銭
  パン  ジャムバター付半斤8銭
  コーヒー 5銭
  貧乏な大衆を相手にした食堂とはいえ、定食だけではなく、パンにコーヒーまであるあたりが、いかにもハイカラを経過した、日本の食事の姿である。
  定食の中身はわからないのだが、大正7年の大阪の簡易食堂では、飯4銭、雑煮2銭、鯖3銭、膾5厘、香の物5厘の計10銭である。いわば、近代日本のめしの原型で・・・いまでも、おれが食堂でくうものと同じようなものなのだ。」

大正14年、1925年の食堂のメニューにはパンやコーヒーまであって、現在の食堂のメニューと同じだ、近代日本めしの原型だ、といっています。
ここで著者は、食堂のメニューを見ることでその時代の「日本のめし」、家庭で普通に食べている料理を把握することができる、という著者の歴史把握の方法を確信している。

こうして著者は、大衆食堂を語る中で、家庭で普通に食べられている料理、近代日本めしの変化とあり方を語ろうとしている。

大衆食堂の料理は家庭料理の反映だと著者は言います。
他方で著者は、大衆が「新しい暮らし」を求め生活スタイルを変えていき、「コンビニていどの豊かさと便利さと新しさが、都会的生活の象徴」になっていったと、現在の食生活、食文化を批判します。
しかし大衆食堂の料理はそれを追わず、変化していった大衆の食生活から取り残された存在になっている。
この対比の中から著者は、変化する新しい食生活に批判的姿勢をとりながら、変化しないでいる大衆食堂を通じて食生活のあり方を語ろうとしている。

ところが変化する食生活に対して、先日紹介した、この後の書である『大衆食堂パラダイス!』ではかなり違っていました。
同書の中で著者は、大衆食としての近代日本食が新しい要素を取り入れながら変化し続けている、という中に肯定的なものを見ています。
そして「大衆食堂」の看板や暖簾は消えていくかもしれないが、大衆食堂の「うまさ」は、さまざまな新しいスタイルの飲食店に息づいている、と言っています。
ここでは、変化する大衆食=近代日本食に足場を置いて、そこから食堂や飲食店の変化を見ている、と言ってもいいでしょう。

「近代日本食」、日本の庶民の食生活の変化を肯定的に見つつ、ではその行方をどう見通すのかという重要な課題を提起しているわけです。
昨年出版された『大衆めし 激動の戦後史:「いいモノ」食ってりゃ幸せか?』は、まさにそこをテーマにしているのだと思います。
ということで、後日、その本を紹介したいと思います。


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